需要が増えつつあるLEDビジョンのPSE試験レポート内容が不備だらけの現状について
こんにちは。管理人の堀です。
中国工場が自前で検査機関を手配した丸形PSE(特定電気用品以外)のレポート内容に不備が散見されているというお話は、これまでも何度かお伝えさせて頂きました。
また一方で、PSE試験の技術基準(試験項目)は日本のJISベースの電気用品安全法別表8、9、10を主として構成するやり方と、国際的なIECベースの同法別表12でのやり方があり、海外工場は基本的に国際ベース別表12で試験をせざるを得ない現状があります。
その中で、対象製品によっては、JISベースでの試験しか認められないパターンがあり、それを無視して、IECベースで試験をしているという不備事例が多発していることもお伝えしてきました。
今回はそれらの合わせ技のようなお話しです。
以前からお問い合わせも多くありましたが、コロナもようやく落ち着きはじめ、外出する人が増えたためか、屋外や広規模な施設に設置するためのLEDビジョンの丸形PSE試験レポートに関するご相談が急増しています。
ご相談の多くは、「既に中国工場がPSE試験をしているとのことなのですが、このレポートで問題ありませんでしょうか?」という内容です。
その際に確認すると、不備だらけでむしろ問題しかないという状態。正直、生産工場や輸入事業者だけの問題ではなく、管轄する経済産業省の制度不備もあるように思いますが、現行法と照らし合わせて合っているか・間違っているかという観点で判断すると、「間違っています」。
そして、間違っている以上は、事業者としては現状と進むべき姿を正確に把握して、なるべく費用が掛からないように、対策を立てていくしかありません。もちろん、フルMAXでの対応も問題ありません。
今回はそうした点について解説していきたいと思います。
Contents
まずLEDビジョンの正しい電気用品区分を確認
そもそもLEDビジョンというのは、冒頭でもご説明したように屋外や広規模な施設に設置する映像などを投影する装置のことです。製品のイメージとしては、今回のページのサムネイルで使用している画像そのものです。
実は、このLEDビジョンはPSE(電気用品安全法)の電気用品区分としては、「光源及び光源応用機械器具_広告灯」に該当します。
論より証拠で、経済産業省の見解も載せておきます。
ようするに、LEDを照明ではなく広告目的として活用した電灯器具という定義付けです。この経産省の定義が本来的な意味で正しいかどうかはおいておき、いずれにしても日本においては、デジタルサイネージなどのLEDビジョンは「広告灯」となっています。
ちなみに、LEDビジョンは1枚物から複数枚のパネルを連結した大画面に出来るものなど、複数の用途があります。試験規格は、J600598-2-(X)、J60598-1とJ55015、J3000です。
一方で、中国工場が独自で手配したPSEレポートらしきものを確認してください、というご相談を頂いて内容を見てみると、「LED ディスプレイ」という区分でIEC 62368-1:2014、J 62368-1 (2020)という規格で試験がされています。
この区分は、「電子応用機械器具_テレビジョン受信機」に該当します。
その際、何が問題なのか
かなりマニアックな話で、何を言っているかわからないかもしれませんが、まとめますと。
広告灯:電気用品安全法の別表8の規格J600598-2-(X)、J60598-1、別表10のJ55015、J3000が対象であるところに、
中国レポートでは、テレビジョン受信機:電気用品安全法の別表12のIEC 62368-1:2014、J 62368-1 (2020)で試験をされているということになります。なお、テレビジョン受信機は別表8でも当然試験可能です。
つまり、広告灯とテレビジョン受信機で電気用品区分が違うことで、適用される規格が違うということです。なので、簡単に言うと、中国工場が独自に手配した検査レポートでは、正しく広告灯として検査が出来ていないことになります。
加えて言うと、広告灯は別表8でしか試験が認められていません。
なので、中国工場手配のレポートはPSE検査をしたようで、実は何もしていないことになってしまうのです。さらに、JISベースの検査を当社のような代行会社を入れずに、独自で出来る中国の検査機関はほとんど存在しませんので、そもそもとして、中国工場が手配したLEDビジョンの検査は、間違っていることが前提になってしまっているとも言えます。
輸入事業者の方は、まずはこの事実を把握する必要があります。
製品的には問題があるのか?
正直、何とも言えません。今のご時世において、中国でもそれほど酷い製品が出回っているとは思えませんし、むしろヨーロッパなどにもCE認証して輸出している工場も多いので、決して品質自体に問題はないのでは?とも思うところもあります。
しかし、日本には日本で定められた法律(電気用品安全法)がありますので、その基準を満たしていないものをそのまま販売するのは、事業者としての資質が問われるところではないでしょうか。
リカバリー方法は?
では、間違ったレポートを受け取った際にどうすればよいのか、見ていきましょう。
イチから試験をやり直す
一番の成功法は間違いなくこれです。そもそも、規格を間違えて試験すること自体、検査機関としての資質を疑うところです。映像が映るからテレビという考えはシンプルという反面、浅はかな印象もあります。
もっと日本のPSEや規格を勉強しろ、と言いたくなる部分もあります。
そうなってくると何が言いたいかというと、テレビ受信機として試験をしていたとして、それ自体もまともに試験が出来ているかどうか、疑わしくなってきます。
また、そもそもとして違った規格で試験をしていますし、厄介なのがお伝えしたように広告灯は別表8でしか試験が出来ず、そうなると、EMI試験についても日本基準の別表10で行分ければなりません。
そうなると、別表12でやっているEMI試験自体も無効になってきます。
複雑すぎて何を言っているかわかりづらいかもしれませんが、要するに、PSEではJISベース試験とIEC国際ベース試験を併存してはいけないことになっています。
つまり、JISベース別表8の安全試験するものは、EMI試験もJISベースの別表10を採用しなければなりません。広告灯は、別表8ですのでEMI試験は別表10です。
しかし、中国レポートではIEC別表12で安全試験をして、一方でEMI試験は別表10でやっていたりします。もはやカオスですね。端々で間違えています。
ちなみに、EMI試験についてこちらもご参照ください。
よくわからないのでイチからキチンと試験をやり直すというのも手です。しかし、その分の費用は当然発生します。
現在あるレポートを流用する
テレビジョン受信機のレポート内容によっては、それを広告灯の内容に流用できる可能性はゼロではありません。ただ、それは素人では正しい判断は絶対に無理です。
手前味噌になってしまいますが、当社の技術者のように120%のレベルでPSEの法制度を熟知している人間であれば、何かしら手の施しようがあるかもしれません。その場合、試験自体はしなくても済むかもしれませんが、技術者のコンサルティング費用は相応に発生します。
いずれにしても現在のレポート内容を精査する必要はある
ただ、それもテレビジョン受信機のレポート内容次第ですので、まずは一度その内容を確認する必要はあります。当社で業務を請け負う場合は、この段階から費用は頂いております。
それでも経済産業局への事業届はできる
一方で、テレビジョン受信機のままで管轄の経済産業局への事業開始届をすること自体は可能です。経産局は、あくまで様式(申請書)に必要事項を書いて提出すればよく、検査レポートの中身などを見せる必要はありません。
中には、入り口で問題ないならそのまま進んでも大丈夫だろう、というある意味で蛮勇な事業者もいらっしゃるかもしれませんが、当然ですが、それはお勧めしません。むしろ、法令違反です。
発売当初は、それで済むかもしれませんが、間違った内容でやっていればいずれ必ず、ボロが出ます。そうした際、経産局(省)の行政指導がどのようになるかは全くの未知数です。
少なくともしっかり理論武装をしてそれに必要なレポート内容の手配を行ったうえで、事業を進めるようにしてください。
型式区分の確認は必要
また、事業届を出す際は型式区分の添付が必要ですが、ヘンテコレポートをあげてくる検査機関でそれを作っているところは見たことがありません。何度も手前味噌で恐縮ですが、いずれにしても、当社のような代行会社に依頼するしかないのが実情かもしれません。
重要なヒント:専用の電源コードセットは必要
最後にもう一つマニアックな指摘で閉めたいと思います。通常、製品本体に電源ケーブルを使用するDC(直流)製品においては、それが着脱不可式であろうと、着脱式であろうと、電源ケーブル、プラグ、コネクタの3点セットは電源コードセットとして、丸形PSEのレポートの部品表に記載する必要があります。
また、実際に一つの電源コードセットを取り決めて、それを用いてのPSE試験が必要です。
しかし、ご相談あったLEDディスプレイのレポートを見ていると、部品表に電源コードセットの記載がありません。実のところは、電源コードセットはJET(一般財団法人 電気安全環境研究所)で菱形PSE(特定電気用品)の試験を受けたものを使わなければなりません。
着脱不可式であればそもそも問題ありませんが、着脱式であっても本体試験とともに試験をします。そうすると、その電源コードセット自体には輸入事業届を出す必要がありませんが、検査内容に入っていないと事業主は、本体とは別に輸入事業届を行い、さらに、あの細い製品に自らの輸入事業者名など表記しなければならないのです。
これについても、方針をちゃんと決めておかないと、電源コードセットの届出不備で製品回収に陥る可能性もゼロではありません。
そういう意味で、最後まで不備だらけの中国検査機関単独のLEDディスプレイのPSEレポートです。
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