モバイルバッテリー(リチウムイオン畜電池)のPSE法改正があるので事業者の方は注意しましょう
こんにちは。管理人の堀です。
これまでこのメディアでもモバイルバッテリー(リチウムイオン蓄電池)のPSEに関する記事を数多く取り上げてきました。
モバイルバッテリーを扱う事業者の方に、中国工場のPSE証明書を信用して本当に大丈夫ですか?最前線の現場の情報をお伝えします
そもそもとして、モバイルバッテリー(リチウムイオン畜電池)は2019年1月までPSE対象ではありませんでした。その背景について、リンク記事中の内容を再度引用いたします。
スマホやパソコンの充電ツール、災害時などの電源供給ツールとして、リチウムイオン畜電池を使用するモバイルバッテリー(蓄電池)の必要性・重要性は近年急速高まりつつあります。
いわゆる「社会のスマート化」において、モバイルバッテリーは必要不可欠なツールであり、需要が増えるにつれて供給(販売事業者)も増えていっています。
しかし、その一方で、電池の発火事故などが相次ぐなどして、経済産業省は2019年2月にリチウムイオン電池を使用したモバイルバッテリーをPSE対象としました。
つまり、安全面の担保がされていない(PSE認証していない)モバイルバッテリーを全面的に違法としたわけです。
しかし、規制ができてそれですべて終了ということはなく、PSE対象化以降もモバイルバッテリーの需要は年々増加傾向にあり、それに起因する事故も増加していきました。
そうした中で、モバイルバッテリー(リチウムイオン蓄電池)のPSE技術基準が一部不完全ということで、その内容が見直されることになります。
今回はそれについて解説していきたいと思います。
Contents
改正内容
PSEを管轄する経済産業省の資料を引用します。
いろいろ書いてありますが、一番わかりやすいのが赤枠部分の図。
端的に書いてある部分をピックアップすると、
全体での上限充電電圧に到達するまで、保護回路が働かず、充電が継続されるため、一部の電池ブロックが過充電となる恐れあり(左図)
各電池ブロックの電圧監視を行った場合、一つの電池ブロックが満充電に至った時点で、保護回路が働き、充電が停止する(構造であることを基準とする)(右図)
とのこと。
引用:経済産業省_製品安全規制の見直し_令和5年3月28日 産業保安グループ製品安全課(資料)
補足すると、完成形でしか見たことがないとイメージしづらいかもしれませんが、モバイルバッテリーというのは、電池セル(単電池)を組み合わせた電池パック(組電池)の複合体によってバッテリー実装品が構成されています。
※バッテリー実装品の大きさによっては、組電池1個で構成されていることもあります。
左から電池セル(単電池)、組電池(セル3本組)、実装品(組電池1個)
つまり、保護回路というものがうまく機能していないと、どれか1つの電池セルの充電が満タンに以上なった際、他の電池もまとめてショートしてしまう可能性が高いということになります。
通常であれば、どれか1つが満充電になればそこでストップし、残りの他のものに充電が自動的に移動します。それが一般的です。
なので、新しい機能(技術基準)を追加して試験をするのではなく、今まで検査の対象外だった内容が検査の対象になる、というイメージです。これによって、より一層、日本国内で流通するモバイルバッテリーの規制強化が推進されます。
その他にも複数に新基準が追加されています。
なお、同資料の中では、このようにも言っています。
(前略)
②技術基準解釈において、最新の国際規格に対応の別表第12基準では、各電池ブロックの電圧監視にかかる規定がある一方で、別表第9基準では明示なし。
③別表第9基準は、平成20年にリチウムイオン蓄電池の基準として技術基準解釈に追加され、当時の国際規格(IEC)を参考に作成されたが、その後見直しが行われていない。
④他方で、平成25年の技術基準体系の性能規定化に伴い、国際規 格への整合化の観点から、整合規格が整備された分野から順次、旧1項基準を廃止することとしている。
これらを踏まえ、リチウムイオン蓄電池の過充電による発火事故防止のため、各電池ブロックの電圧監視にかかる要求事項が明示的にない別表第9を最新の国際規格に対応した別表第12の整合規格に一本化する改正を行った。
書いてある通りなのですが、要するに今回の改正に際しての、リチウムイオン蓄電池(モバイルバッテリー)の技術基準が別表9にはなく、一方で別表12には記載されている状態であり、これを機会に(別表9をなくして)別表12に一般化するという内容です。
そもそも別表9、別表12とは?
PSEの技術基準のお話はこれまで何度も書いてきましたが、あらためて解説します。
PSE(電気用品安全法)には、
(1)日本独自の技術基準(JIS)
(2)国際規格(IEC規格)に準拠し日本独自の考え方を追加した技術基準(一般的にIEC-J規格という)
の大きく2つの技術基準があります。(1)は電気用品安全法別表一から十一まであり、(2)は国際規格に準拠して同法別表第十二となっています。
これらの技術基準に基づいて、各製品のPSE検査が行われます。
PSEの技術基準は日本独自の規格(JISベース)と国際規格(IECベース)の2つが存在しており、基準内容を満たしたPSE試験を行っていれば、どちらの規格を採用した試験でも構わないことになっています。但し、混在させることできません。どちらか一方のみで行うが基本です。
海外の検査機関で海外工場生産は、日本規格より海外規格を採用して試験をする事が多くあります。しかし、中には、日本規格でしか試験ができない製品も存在しています。
ちなみに、一般的な家電品のほとんど多くは別表八に該当しており、モバイルバッテリー(リチウムイオン蓄電池)は別表9として独立して存在しています。一方、別表12でも試験は可能です。
海外検査機関では別表12を採用したPSEバッテリー試験をするケースもありましたが、別表9でやるところもありました。そうした中、今回の改正で別表12に一本化するという流れになります。
改正はいつから?
令和3年(2021年)5月に、経産省より「電気用品の技術上の基準を定める省令の解釈について」が発表され、同年6月にパブリックコメントを声明し、12月以降に他の製品の技術基準とともに法改正着手、3年間(2024年まで)の据え置き期間とされました。
つまり、本ページを執筆している2023年5月現在からすると、あと1年7か月ほど猶予があります。
猶予期間中は焦って用意する必要もない
モバイルバッテリーの事故自体はあってはならないものですが、一方で、現行法で今の今は別表12で試験をする必要がないことになっていますので、正直、それほど焦って試験を切り替える必要もないと感じています。
というのも、別表12の試験項目は改正内容も盛り込まれているわけで、別表9より試験費用が割高になっています。無理に多い費用を払う必要もありません。
もちろん、来年12月以降も間違いなく販売する(している)という見通しになっていれば良いかもしれませんが、今の段階でそれを予測するの難しくもあります。特に売り切りで考えていれば、今時分で別表12での検査は法律的には求められていません。
一応言っておくと、そもそもは保護回路が各電池に接続するようになっているのが一般的です。仮に別表9で試験した場合でも、試験項目には入っていませんが、そのような構造になっている場合は十分にあります。
あくまで試験項目が追加されたという点です。
一方で、来年2024年12月に法改正施行があるという事実は変わりませんので、それに向けて、モバイルバッテリーのPSEとどのように向き合うのか、関連自業者さんは今から頭の片隅には入れておいても良いでしょう。
中国工場独自のPSEレポートは本当にひどい
またその一方で、中国工場が独自で選んだ中国検査機関によるPSEレポート(試験内容)は惨憺たるものです。
モバイルバッテリーを扱う事業者の方に、中国工場のPSE証明書を信用して本当に大丈夫ですか?最前線の現場の情報をお伝えします
守秘義務の関係もあるので、あまり具体的には書けませんが、上記のような中国工場および中国検査機関は日本のPSE基準を理解していません。
試験のサンプル数も、電池セル100個くらい、電池パック30~40個くらい、実装品1個というPSEの規定があるにもかかわらず、
量が多い、そんなに用意できない、他の検査機関ではもっと数を少なくできると言っている、お前たちは余計な仕事をさせるインチキ業者だ
という感じで罵られることもしばしばあります。
いやいや、日本のPSEを理解していないのはあんた方だから。。日本の法律守ってちょうだいよ。
経済産業省も取締りを強化している
正直、こういうのも社会問題の一種なので、経産省には是非どんどん取締って頂きたいと思っています。
なお、下記記事にも書きましたが、経産省が実際に中国の違法家電に関する取締りを強めているとのこと。どんどんやって頂きたいですね。
リチウムイオン電池を使っていてもモバイルバッテリーでなければPSE対象外
最後になりますが、これも本当によくある質問です。
リチウムイオン蓄電池を搭載した機械なのでPSE対象だと思います。検査してください。
しかし、リチウムイオン蓄電池がPSE対象になるのは、その「主たる機能が他者への給電を目的としたもの」に限ります。それ以外は対象外です。
また、製品に内蔵されているリチウムイオン蓄電池が容易に着脱(交換)可能の場合、上記であってもPSEの対象になります。
この辺はよく理解されるようにしてください。
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