便利なIHクッキングヒーターは、PSEマーク、電波法技適、電磁試験が必要です
こんにちは。管理人の堀です。
火を使わずに炒め物、煮物、焼き物などができるIHクッキングヒーター。ファミリーや単身者など、使用する方は大変多くいらっしゃると思います。
あまり気にされたことがないかもしれませんが、
IHクッキングヒーターは丸形PSE(電磁誘導加熱式調理器)、
高周波利用設備としての電磁誘導加熱式調理器
に該当します。
また、最近では、スマホと同期できるBluetoothタイプも登場しており、そうすると電波法技適に該当し、なんと合計3つの認証・試験が必要になるのです。
正直言って、3つもあるとかなり重労働でしょう。また、高周波利用設備としての電磁誘導加熱式調理器の電磁試験は、日本独自の法律ですので、その試験をできる検査機関はかなり絞られてきます。特に、海外検査機関の中から見つけるのはまさに至難の技。
検査機関のネットワークを持っていないと、例えば、PSE(特定電気用品以外)、電波法、電磁それぞれを別の検査機関でやらないといけなくなりますし、ましてやPSEや電波法は生産工場のある海外(中国)で試験して、電磁だけは日本で検査する、などという非効率なことになりかねません。
今回は、IHクッキングヒーターで必要な3つの試験をすべて同じ検査機関で行った当社の事例をお伝えしていきたいと思います。
Contents
そもそも「高周波利用設備」とは何なのか?
総務省の高周波利用設備に関するページを引用します。
電波法では、電線路に10kHz以上の高周波電流を通ずる電信、電話、その他の通信設備及び10kHz以上の高周波電流を使用する工業用加熱設備、医療用設備、各種設備については、原則として個別に設置許可を受けるよう定めています。
高周波利用設備は高周波電流を利用するため、設備から電波が発射されることとなり、放送や無線通信に妨害を与えることが予想されるため、規制の対象としています。
簡単に言うと、高周波という強い電波を発する設備(工業用加熱設備、医療用設備、各種設備など)は、他の電波製品に影響を及ぼす(電波障害)の可能性があるため、その設置前に個別(一個ずつ)に許可が必要になります。
しかし、下記のような製品・設備に関しては、個別(一個ずつ)の許可ではなく、型式(生産ライン)での許可で認められます。
(一例)
ア誘導式読み書き通信設備
イ搬送式インターホン
ウ一般搬送式デジタル伝送装置
エ特別搬送式デジタル伝送装置
オ広帯域電力線搬送通信設備
カ超音波洗浄機
キ超音波加工機
ク超音波ウェルダー
ケ電磁誘導加熱を利用した文書複写印刷機械
コ無電極放電ランプ
サ一般用非接触電力伝送装置
シ電気自動車用非接触電力伝送装置
その際に、
こうした表示が必要です。
そして、今回のテーマであるIH(電磁誘導加熱式調理器)も高周波利用設備に該当し、
電子レンジやIH(電磁誘導加熱式調理器)に関して、製造事業者等が、機器の型式について技術的条件に適合していることの確認を自ら行い、型式確認届けを総務大臣に行う必要があります。
細かいですが、先述の図とは違う表示が必要です。
なお、電磁(高周波)試験に関しては、電波法試験とは別のものになります。もちろん、無線を発して他者と接続する機能がなければ電波法試験は無用ですが、例えば、今回のIHのようにBluetoothを用いてスマホと連携する機能があれば電波法試験が必要になります。
引用はすべて「総務省_電波利用設備の概要_高周波利用設備の概要」より
ご依頼頂いたお客様の背景
日本法人のご担当者様から、
アメリカ本社が中国工場で生産させているIHクッキングヒーターに対して、日本で必要な試験を行い販売したいので、必要な試験を教えて欲しい。そして、その検査も行って欲しい。
というご依頼を頂きました。
お話を頂いてから調べてみると、そのIHヒーターは、電源コンセントで給電(丸形PSE)、IH機器と調理器具が接する表面温度をBluetooth接続してスマホに送れるということで電波法、そしてIHなので電磁試験が必要だとお伝えしました。
最近ではスマホと連携するIHクッキングヒーターも増えている
3つの試験を行うことになるので、正直、試験費用や当社手数料なども高くなってしまうのですが、お見積りを出すと、お客様にはすぐにご了解いただきました。
少々驚くとともに背景をお伺いすると、
実は、製品はアメリカ本社の開発商品。そのIHを世界展開をする予定があり、まずは日本に進出する必要があるので、少々の試験費用は織り込み済み。また、費用も日本法人ではなく、アメリカ本社が拠出するので、日本の担当さんにとっては痛くもかゆくもなかったのです笑。
ただ、お客様は、検査のスピードアップ化の為にも、中国工場製品において、PSE、電波法、電磁をすべて一括して受けられる代行会社を探していたのと、出来たら検査機関も1つにまとめられるようにしたい、という要望がありました。
特に、中国国内で電波法認証は出来ないと認識されていて、当社のリソースを使えばそれも可能だとご説明差し上げると、是非当社に依頼したいと仰っていただけました。
検査失敗の連続、特にPSEが大変
出来るだけ早く試験を行って、日本での販売を急ぎたいという思惑でご依頼があり、こちらも出来る限りご希望に添いたいとは思っていましたが、その思いとは裏腹に試験はかなり難航を極めました。
しかし、海外製品で日本の試験をするというのはこういうモノなのかも知れない、という気持ちもあります。そもそも規格が違うわけなので、特に大型の製品であれば何かしら不具合があるのは仕方ないかも知れません。
そればっかりは、最初から工場に指導するのは難しくあり、やはりやりながら進めるというのが、一番の近道であると個人的に感じています。当社の役割としては、そうした認証の事実をお客さんに丁寧に説明することだと思っています。
ざっとですが、試験工程についてざっと振り返っておきます。
1回目試験
中国工場は検査機関にサンプルを持ち込みました。電波法は大体大丈夫、PSEでEMIが不合格ということが判明。すると、工場はそのままサンプルを持ち帰ってしまいました。
EMIの対策をするということでしたが、その為、電波法・電磁の他試験も進められない状態になってしまいました。
アメリカ本社、日本事業者ともに、何も進まない状況にかなり苛立ちを感じていらっしゃったと思うのですが、こればかりは生産工場の仕事のやり方なのでどうもしようがありません。
EMIについてはこちらもご覧ください。
2回目試験
1か月~2ヶ月して、工場はEMI対策をしたサンプルを再度提出してくれました。
PSE再不合格、外郭材料試験で問題あり
その後、電波法、PSE、電磁の試験は良好に進んでいきましたが、PSEで今度は、外郭材料の不合格がありました。
1回目の試験でサンプルを持ち帰ってしまっていたので、外郭材料についてはこの時に初め
て発見されました。
なお、「外郭材料」とはかなり専門的な言葉ですが、製品外部(表面)使われている器材のことで、PSEではこれの耐熱・絶縁体試験などが行われます。この試験で不合格となってしまいました。
外郭材料が不合格となると、かなり大事でもあるのですが、必ずしも全取っ替えすることもなく、表面積を変えたり一部の付属品を変更することで合格となることもあります。いずれにしても、少し時間は掛かりましたが、その後無事に試験合格となりました。
アメリカ本社とやり取りしながら試験は大変だった
そうこうしながら、予定期間をオーバーしつつも、PSE、電波法、電磁すべての試験を無事に終えることが出来ました。実は、一番大変だったのは、すべての作業をアメリカ本社と確認しながら進めたことかも知れません。
通常であれば、認証試験は工場と直接確認しながら進めるものなのですが、今回はすべてにおいてアメリカ本社にお伺いを立てる、という形式を取っていました。
アメリカ本社と英語でやり取りしながら、中国工場には中国で指示を出す、そして、日本の事業者には日本で状況を説明する、という進行形式でした。こういったトリリンガルの対応が出来るのも当社ならではの強みであると自負しています。
PSE問題で試験時間は掛かってしまったとしても、各国のプレイヤーがすべて情報共有できる状態でしたので、大きく揉めること無く試験を終了することが出来ました。
特に、アメリカ本社の担当者は、当社に対してとても感謝してくれたようで、今後、日本以外の国にも製品展開をする際は、当該国それぞれの試験をお願いしたい、ということになりました。
技術者としても、未来に繋がるグローバルの新しいお客さんが開拓できたと、喜んでいました。
電磁(高周波利用設備)の総務省申請は素人では不可能レベル
余談ではありますが、電磁(高周波利用設備)の総務省申請はかなり困難です。
書類の申請自体は、様式に自社の情報を書いて送るだけですが、難しいのは製品内容を総務省指定のフォーマットに落とし込まないといけません。なんと、電磁試験そのもの以外に、その検査内容を別の内容に移し替える必要があるのです。
海外の検査機関は基本的にここまでやってくれません、というか日本の総務省フォーマットなど知らないので出来ない、という方が正確かも知れません。
ご参考までに様式1ページをスクショしておきます。
こういった内容が4枚ほど続きます。
正直、これは専門家に依頼しないと素人には手に負えない内容でしょう。
PSEや電波法の申請は比較的簡単ですが、電磁(高周波利用設備)に関しては、別添資料を作成する必要があるので、この点は気を付けておいてください。
海外メーカーの日本進出をサポートする形で始めてみるのも一つの手
日本国内でなかなかビジネスが見つからないと思っていらっしゃる方は、このように海外メーカーと組むというやり方もあります。
今はコロナウィルスの影響で、海外の展示会に参加というのは難しいかも知れませんが、それでも日本に進出したいと考えている海外メーカーは少ないので、そういうところに当たりを付けて調べてみるというのも、新しいビジネススタイルかも知れません。
そうした際、認証費用はすべて向こうで負担してくれることもありますので、自身の懐は大して痛まず、求められるのは日本国内での機動力・行動力がメインということもあります。
今回は、IHクッキングヒーター(電磁誘導加熱式調理器)で必要になる国内認証試験についてお伝えさせて頂きました。
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